Q.個人で経営している診療所を法人化すると、社会保険に加入しなければならないのですか?

A.医療法人化すると、社会保険(健康保険及び厚生年金)に加入しなければなりません。
なお、個人で経営している診療所についても、常時5人以上の従業員を雇っている場合は社会保険に加入する義務があります。

1.社会保険
医療法人を設立すると、社会保険(健康保険及び厚生年金)に加入しなければなりません。
しかし、医療保険については、医師国民健康保険又は歯科医師国民健康保険に加入済みである例が多く、法人化後もそのままにするのが有利といえることの方が多いと思われます。このような場合、院長先生は医師国民健康保険又は歯科医師国民健康保険への継続加入ができますので、厚生年金に加入するだけで構いません。
その手続きとしては、年金事務所に対して健康保険の適用除外承認申請を行うこととなります。このことにより、健康保険の適用除外承認を受け、医師国民健康保険組合又は歯科医師国民健康保険組合の被保険者となることができ、社会保険としては厚生年金だけに加入することが可能になります。
厚生年金の対象者については、常勤者及び勤務時間が常勤者の4分の3以上のパートタイマーが対象者となり、勤務時間が短時間のパートタイマーは対象外となります。
なお、平成8年に、厚生年金に加入していない医療法人や、代表者が未加入である法人等について会計検査院による検査が実施され、未加入である法人に関しては検査月の1日付で加入手続きが行われることとなりました。以後は、医師国民健康保険への加入に当たって厚生年金への加入が確認される場合が多くなっていますので、留意が必要です。

2.労働保険
労働保険(労災保険及び雇用保険)は医療法人を設立した後もそのまま引き継がれることになります。従業員は法人化して間もなく退職した場合にも、個人診療所のときの勤務時間を合わせて雇用保険の受給ができます。ただし、労災保険については労働基準監督署、雇用保険については公共職業安定所への手続きが必要です。
院長先生や奥様等は、労災保険及び雇用保険の対象者とはならないのが原則です。

3.法人化のデメリット
社会保険の強制加入によって、支払わなければならない社会保険料が増加することが、医療法人化のデメリットであると考えられます。個人で経営している診療所で従業員が5人未満である場合には、社会保険は任意加入とされていますので、従業員は医師国民健康保険と国民年金に加入する等して、自ら保険料を負担することが多いといえます。しかし、それまで従業員が各々負担していた社会保険料の半分を、法人化後は医療法人が支払わなければなりません。
このように、法人化することで社会保険料の法人負担額が増えます。その分経費が増えますので税金が少なくなりますが、増える社会保険料の法人負担額と少なくなる税額を比較すると、前者が多くなります。したがって、個人で経営している診療所を医療法人化する場合には、社会保険料の負担が大きくなることに留意すべきです。
なお、医療法人化により従業員にとっては福利厚生が充実することとなりますので、医療法人化は従業員の確保についてはメリットがあると考えられます。